大谷観音
宇都宮市は、栃木県の県庁所在地で人口は約50万人(2011年現在)です。
太平洋戦争中に、宇都宮で編成された第14師団が、南方の激戦地に移動する前に、もともと駐屯していた中国の満州から除隊した兵士が、帰国の際に満州の郷土料理である『餃子』の製法を持ち込んだことから、『餃子の街』としても有名です。現在、市内には約200軒の餃子専門店があり、町おこしにも一役買っています。
市内の北西部の大谷町で採掘される『大谷石(おおやいし)』は、柔らかくて加工しやすく耐久性にも優れるため古くから建築資材として重宝され、関東大震災にも耐え、現在、愛知県の明治村に移築・公開されている『帝国ホテル・新館』にも使われました。この大谷町に、古刹の『大谷観音』と『平和観音』があり、帰りの東北新幹線までまだ時間があるので訪れてみることにしました。
大谷観音までは駅からバスで片道約30分ほどです。『大谷観音』の前に立つと、後方の風化した大谷石の岩石が、独特の景観を形つくっています。山門の入り口に、徳川家の『葵紋』の入った幔幕がかけられているのは、江戸時代初期に大谷観音が、再興された際に、徳川家康の長女である『亀姫』が、天海僧正の弟子で、時の住職だった『伝海僧正』に援助したためです。
このお寺の開基は、810年に弘法大師空海によるものとされています。
鎌倉時代には、坂東33観音霊場の第19番札所にも指定されています。本殿の観音堂は、大谷石の天然の洞窟を利用したもので、すっぽりとうまい具合におさまっています。このお堂のうしろに本尊があります。本尊は大谷石凝灰岩の岩壁に彫られた高さ4メートルの『千手観音像』で、含めて10体の塑像が彫刻されています。いずれも見事なものでしたが、残念ながら撮影禁止でした。この磨崖仏の中で、千手観音像はこのお寺を開基した空海の作と伝えられ、『日本最古の石仏』と札に記されています。
境内の朱色の橋と門の向こう側にあるお墓は、大谷観音歴代住職のお墓です。1965年(昭和40年)、大谷観音の防災工事中に埋葬されたとみられる『人骨』が発見されました。鑑定の結果、縄文時代から弥生時代にかけての人骨であることがわかり、この地が古代人の住居跡であったことが判明しました。これは『大谷寺洞穴遺跡』と名付けられています。
すぐ隣の大谷採石場跡に建つ『平和観音』は、第二次大戦の戦没者を悼み、世界平和を祈念して、元大谷観光協会によって昭和29年12月に完成したものです。完成まで6年の歳月をかけ、仏師『飛田朝次郎』氏の作になるもので、高さ26メートル胴回り20メートルの手掘りの像です。
平和観音前はちょっとした広場になっています。平和観音の胸部の位置にある展望台からは、大谷町を一望できます。この町の地下30メートルには、採石場跡の巨大地下空間が広がっており、戦争中は軍需工場に転用されていました。現在、空間の一部は『大谷資料館』になっています。この地下巨大空間では、しばしば陥没事故も発生し、最近のもっとも大きな記憶に新しい陥没では、3軒の住宅が地盤もろとも地下に落下したというのが、ニュースで取り上げられていました。またまたマニアックな話で恐縮なのですが、昭和ウルトラマンシリーズの最終作で『ウルトラマン80』(昭和55年4月2日から昭和56年3月25日・全50話放送)で、この平和観音が舞台となったことがあります。サブタイトルは確か『さすが!観音さまは強かった!』とか似たようなもので、ここの平和観音に封じ込められていた怪獣が、なにかのきっかけで封印をやぶって地上に現れて大暴れをし、俳優の長谷川初範ふんする主人公の中学校教師『矢的猛(やまとたけし)』が『80(エイティー)』に変身し、怪獣を倒すというものです。
クライマックスはいっぷう変わったもので、横倒しになった平和観音様を抱きかかえた『80』が、なんと表現すればいいのか、怪獣に向けて『オーラ光線』のようなものを発射し、ギャーとなった怪獣が再び観音様に封じ込められてしまう、という結末でした。これについてはなんの解説もないので『この不思議な光線はきっと観音様のお力をいただいたものに違いない』と見ていて、自分を納得させました。そんな懐かしい過去のことも思い出しながら、大谷町をあとに帰途に着きました。
宇都宮駅に戻り、15:04発上野ゆき『あおば214号』に乗りました。上野まではわずか50分という速さで、東海道新幹線なら、さしずめ新大阪から米原の距離に相当する時間です。
この当時の『あおば号』は、東海道新幹線の『こだま』に相当する各駅停車のもので、運転間隔は約1時間おきでした。現在の東北新幹線には『あおば』という愛称の列車はなく、『なすの』がこれにかわっていまに至っています(おわり)。

大阪府 S様

 
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