宇曽利湖(うそりこ)
恐山には宿坊があってひとり1泊2食付きで12000円ほどで宿泊することができます。
また噴火の記録はありませんが火山地帯にあるため、境内には温泉が湧いています。
宿坊の内湯のほかに外湯として4ケ所の浴場があり、500円の入山料を収めて境内に入った人はだれでも入浴することができます。この4ケ所の浴場にはいかにも霊場らしい逸話があります。宿泊者が夜に浴場に入りに行くと、中からガヤガヤと人の話し声がする。『おや、誰か先客が…』と思い、扉をあけるとだあれもいない。それどころかいつのまにか話し声もやんでいる。『気のせいか』と思い、ひと風呂あびて外に出ると、途端に中からガヤガヤと話し声が聞こえてくる。急に怖くなった宿泊者は服を着るのももどかしく一目散に宿坊に逃げ帰る、といった話です。
恐山の入山期間は毎年5月1日から10月31日までで冬季は閉鎖されています。この訪れる人のいない冬の恐山というのがまたいっそう怖いらしく、だれもいない浴場からはつねに大きな話し声がし、境内には等身大の人魂が至る所ににふわふわと飛んでいるというものです。いずれも噂話ですが真偽のほどはともかく、場所が場所だけにあながちウソとは言えないと思います。
順路に沿って進んでゆくと、硫黄臭のただよう草木のない荒涼とした地帯にでました。地獄谷です。死者の霊をなぐさめるためかカラカラと回る赤い風車が風景の中に点在し、まさに幽鬼せまるものがあります。『血の池地獄』『賽の河原』などが続き、ここを抜けると極楽浜のある宇曽利湖(うそりこ)にでました。この湖を見渡す丘のうえに『大平和観音像』が立っていて、ここだけがひどく明るく感じられました。極楽浜から見る宇曽利湖はエメラルドグリーンの色をしており、まるで南国のビーチのようです。水質は強酸性のためほとんど魚は住んでいません。この湖は、蓮華八峰と呼ばれる8つの峰にかこまれた周囲約2キロメートルの火山湖で、恐山の地名の由来になったといわれています。一羽の鵜に導かれてこの湖を発見した慈覚大師は、湖を『ウソリコ』と名付け、それでこの霊場を『ウソリヤマ』と呼び、それが転じて『恐山』になったという説です。滞在約1時間ののち10:30発のバスで恐山をあとにしました。この恐山行きは25年以上たったいまでも強烈な印象を、僕に残しています(つづく)。

 
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