名寄まで
深名線(しんめいせん)は函館本線の『深川駅』から宗谷本線『名寄駅』に至る路線総延長121.8キロメートルの赤字ローカル線でした。合計21の駅があって、僕が乗車した時は、全線を走破する列車はなく、すべて途中の『朱鞠内(しゅまりない)』で乗り継ぐことになっていました。営業係数は最悪時には100円かせぐのに2785円かかるという目を覆いたくなるような状態で、常にワースト上位にランクされている路線でした。
幾度となく廃止対象の俎上に上りましたが、並行する代替道路の未整備を理由にその都度、虎口を逃れてきましたが、道路が整備された1995年(平成7年)9月4日についに全線廃止となりました。ほかの廃止対象線で多々見られた『乗って残そう運動』もとくにおきることなく、静かな廃止でした。
今回はこの話題の(鉄道マニアにとって)大赤字路線に乗ってみようと思い、1984年(昭和59年)8月16日、ふたたび夜の函館駅にやってきました。
今回も積丹への旅で利用した23:51発札幌行き夜行普通41列車に乗車しました。前回、18きっぷの使用にあたり、日付を勘違いして乗車日からの利用開始に設定してしまい、改札にきた車掌さんに『18きっぷは翌日にまたがって使えませんよ』と注意されたので、今回は41列車に乗って最初に日付の変わる『桔梗(ききょうえき)』駅までの150円の普通きっぷを購入し、18キップの利用開始日を8月17日に設定しました。ちなみに前回、車掌さんにルールの間違いを指摘されたとき『このきっぷどうしたらいいですか?無効ですか?』と聞くと、もし日付の間違いを咎められたら利用日を勘違いしてました、とでも言っておいてくださいと大目にみてくれました。じつにおおらかなもので、その後、きっぷを見せるたびドキドキしましたが、どこの駅でもとくに呼び止められることはなくホッとしました。41列車は今回、念願の『カーペットカー』に初乗車しました。停車位置を記憶していたのが役にたったのです。カーペットカーは乗車券のみでだれでも利用でき、枕も備わっていて横になって眠ることができてじつに快適でした。旧型客車の『オハフ46』を改造したもので、カーペット車と書かれた『サボ』が珍しいです。
函館〜札幌間の普通夜行41列車と46列車のその後ですが、青函トンネルが開通した年の1988年7月から『快速ミッドナイト』という名称を与えられ、車両もリニューアルした気動車(ディーゼルカー)が運用されました。伝統だったカーペットカーも連結されていました。しかしほかのブルートレインや夜行列車たちと同じくここでも格安の夜行バスとの競争には打ち勝つことができず、2002年11月をもって残念ながら廃止されてしまいました。
夜が明けて日付の変わった8月17日金曜日、列車は小樽に到着しました。ここから電化区間になるため機関車付け替えのため12分間の停車です。小樽博見学のためかここで大勢の降車客がありました。札幌にには定刻の6:47に到着しました。『牧歌の像』が立つ駅前に出ると、どんよりとした曇り空でした。
深名線には函館本線の起点である深川駅からではなく宗谷本線の名寄駅から乗車することにしたため、札幌から名寄まで長い普通列車の旅が始まります。まずは7:12発、札幌発滝川ゆき521列車に乗車します。わずか3両編成です。早朝のせいか車内は数えるほどしか乗客がいませんでした。車内で朝食としてキヨスクで購入したパンと牛乳を採りました。9:18滝川着。ここから9:54発の旭川ゆき157列車に乗車します。この157列車はなんのことはなく、札幌から乗ってきた521列車がそのまま変身したもので、ふたたび同じ席にまた座り直しました。札幌に次ぐ北海道第2の都市、旭川10:59着。旭川はいま話題の『旭山動物園』の最寄駅です。もちろん当時はまだ全国的に無名(といっては失礼ですが)の動物園で、うかつにも旭川に動物園があることさえ知りませんでした。
11:24旭川発稚内行き普通列車321列車。これが深名線接続駅の名寄へのアンカーとなる列車です。321列車は稚内まで約6時間かけて走るという長距離ドン行で、ほかにも道内にはかつてこのような長距離普通列車が数多く存在していました。
余談ながら2010年現在、全国の定期普通列車でもっもと運行時間が長いのは、滝川を9:37に発車する釧路行き『列車番号2429D』というディーゼルカーで、17:39着の終点の釧路まで308.4キロを8時間2分かけて走り抜きます。終点釧路まで頑張って乗り通すと最近まで『完全乗車証明書』なるものがもらえる特典があったようです。
話がそれましたが、稚内行き普通列車321列車は見た目は2両編成ですが、うち1両は郵便車なので実際は1両編成という列車で、いくらローカル線の宗谷本線とはいえ、停車駅ごとの乗客で混み合ってきました。立ち客が増えるにつれ『たった1両か』これはひどいなと文句をいう人たちが多く、のどかな車窓とは裏腹に怒りに似た雰囲気が車内に充満します。
宗谷本線は変わった駅名が多く11:50着の『比布(ぴっぷ)』駅は『ピップエレキバン』のCMで有名になった駅です。12:14着の『塩狩駅』は映画にもなった塩狩峠の駅です。
12:25着の『和寒』駅は『わっさむ』と読み、鉄道ファンには知られた超難読駅のひとつです。12:58着の『多寄(たよろ)』駅は、アイヌ語の『タイオロオマペツ』(森の中に入る川)が転訛したものです(つづく)。

 
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